2006年11月10日

●あるアルバイトのこと

20代前半のころは色んなバイトをやりました。芝居ばっかしてたので、お金はいつもない。一度、地下鉄の駅構内を清掃するアルバイトをしたことがあります。駅を巡回して壁、床、階段、側溝をきれいにしていく作業。これがけっこうキツイ。作業がどうこうじゃなくて、気持ちがキツイ。正体の分からないドロドロしたモノをしゃがみこんで削り落とす。その横を避けながら歩く人がいる。終わったはずの場所に新しいガムが付着している。だんだん気持ちがダウナーになっていく。なんだか怒ったような顔になっている人までいました。たしか1週間の契約だったんだけど、2、3日経つとどんどんバイトが減って、最後は半分以下に。でも、その作業を請け負っている会社の人は、そんなことはまったく気にならない様子で、笑顔でガシガシ掃除を続ける。これがすげえカッコいい。バイトの人数が減るのも元々計算に入れていたみたい。作業の山場は実は初日、二日目までで、後半はぜんぜんラクチンなのでした。

最終日。お昼ごはんをおごってくれるというので、会社の人について行きました。最後まで残ったバイトのうち3,4人が参加。みんなある種の達成感があったみたいで、食事中の会話がちょっとハイ。駅を汚す連中がいかにくだらないかとか、こういう仕事をやっている会社は目立たないけど本当に必要だし、すごいね、とそんなことを言い合っていました。会社の人は「うんうん」とうなずいたり、「たしかにキツイけど、きれいになるとうれしいよね」と答えるだけ。

食後のコーヒーが出たくらいで、ふと会社の人が僕らを見回して、「あのさ」と切り出した。「うちの会社はこういうことやってて、景気に左右されないし、〇〇銀行(大手の都銀)とも取引があるし、福利厚生もしっかりしてて、給料もけっこう高いんだよ。だから、就職してみる気、ないかな。君たちはマジメだし、よかったら推薦するよ」場の空気がいっぺんに静かになりました。お互いの表情を確認して、なんとなく下を向く。みんな、さっきまで「カッコイイ」と発言していた分だけ、バツが悪い。それとこれは違うんですよ、と言いたいけど、本当は同じだもの。この手の反応にも慣れているのか、おじさんは「君らは大学行ってるんだっけ?内定とかもう決まってる?」と助け舟を出してくれた。みな、曖昧にうなずく。僕はそのころ学校全然行ってなくて、卒業するアテもなく、就職活動なんてしたこともなかったんだけど、「決まってます」とウソをついた。「銀行に勤めるんです」。なんというかひどいウソだな、と今でも思います。でも、「そうか。じゃあ仕方ないな」。その人は伝票をもって立ち上がった。「〇〇銀行にもし就職したら、うちにもっとたくさん融資してくれよな」なんて笑ってくれた。

午後の作業はみな無言。でも心なしか仕事が丁寧になっていた気がします。あれはなんだろう。罪悪感だったのかなあ。帰りに受け取った給料袋には、皆勤手当てで5000円が余分に入っていました。今でも地下鉄に乗ると、このときのことをたまに思い出します。銀行にも清掃会社にも勤めることはなかったけど、せめて、酔ったときのゲロは側溝でなく、トイレで吐くようにしたい。しょーもない「せめて」だけど。

  

Posted by tekigi1969 at 2006年11月10日 16:55
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コメント

なんか色々とツボでした

Posted by 奴 at 2006年11月10日 19:43

わたしもつぼにはまりました。

Posted by にゅーとらる at 2006年11月11日 08:44

>奴さん
 おっ、よかったです。

>にゅーとらるさん
 コメントありがとうございます。
 つぼはいってよかったです。

Posted by 適宜更新 at 2006年11月11日 21:05
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