2008年12月16日

●わからない、について(竜王戦見物記2)

こないだの「竜王戦見物記」の続きです。

プロの将棋をみていると
「わからない」という言葉の多さにおどろく。

もちろん、定跡もあいまいなぼくに
彼らの将棋の真意がわかるわけはないんだけど、
現地にいって、気づいたのは、
どうやら、ぼくだけじゃないらしい、ということ。

例えば、竜王戦第5局がおこなわれたホテルの1階。
対局場の様子と、盤面を映し出したモニターがあって、
お客さんが椅子に座って、じっと画面を見つめていた。
たぶん、みんな将棋が好きなんだろうな、
ぼくなんか敵わないくらい強いんだろうな、と思ってみてた。

ところが、
1時間くらいジッと腕組みをしていたおじさんが、そっと隣のひとにいったのは
「どっちがいいの?」
という質問でした。

聞かれたひとの答えも
「先手が良さそうにみえるけど、解説を聞くとまだ分からんらしいんだなあ」
「ふううむ」

対局場と同じ階には、控え室がある。
ここには2つの将棋盤があって、
プロ棋士や関係者が集まって、”検討”をしている。

対局場では数十分に1手くらいしか進まないけど、
こっちの駒はどんどん動く。
「なぜ、こう指したのか(こう、指さなかったのか)」
「ここから、どう指すのか(どう指したらマズイのか)」
が考えられているのです。

プロ同士が将棋を指すと、
危険察知能力がどっちもハンパないから、
二人が何を考えているか知るには、
「指した手」よりも「指さなかった手」が重要になったりするらしい。

だから、ここにある2面の将棋盤には、
カメラには映らない
対局者の脳ミソのなかが、再現されている、ってことになる。

でも、ここで聞こえてくるのも、
「先手がよさそうけど、わからない」
「難しい」
なんて言葉ばかり。

名だたるプロ棋士が集まって、
「わからない」「難しい」を連発するのを聞いていて、
竜王、名人に対して、遠慮しているのかしらん、
なんて風にも思ったんだけど、どうやら違う。

実際、こんなやりとりもあったのです。
「△△先生、解説会場に来ていただけませんか」
「いまは■■先生がやっているでしょう」
「いや、■■先生がご自分の解説に自信がないとおっしゃってるんです」
「わかりました。
 ぼくも分からないけど、とりあえずいま検討したことを話します」

これは、なんだろう。
控え室の隅っこで、素人なりに想像しました。

危険察知能力がどっちもハンパない天才同士が、
それでも、相手を少しでも出し抜こうとして
たっぷり時間をつかってトコトン考える。
大のおとなが脳ミソを振り絞って、
集中力を高めるため、静かなホテルの最上階の部屋まで借りて、考える。
こんなシャレにならないほどの状況で指される将棋は、
ほとんど誰にも解析できないような
「わかんない」方法に進むしかないんじゃないだろか。

だからこそ、ギリギリの攻防になった第4局が終わったあと、
渡辺竜王は
「なぜ自分が勝っているのかがわかりませんでした」とブログに書いて、
羽生名人は
「最後は何か手があったかもしれませんがわかりませんでした」と語り、
現地でこの将棋を検討していたプロ棋士が、
投了に「えっ」と驚いた。

それは、彼らの将棋が
「相手は気づいていないけど、自分だけが読みきっている一手」
というモノがほとんどありえなくなるまで
日々突き詰めておきながらも、
それでも、そのありえない一手をギリギリまで
求めるからこその「わからない」だと思う。
極端にいうと、対局者にもホントのところは、わかんないのだ。
(たぶん、だけど)

現地でみていた、第5局。
夕方になると、
プロの検討陣のなかで、
少しずつ「わからない」がほぐれてくる。
どちらが優勢かがみえてくる。

「これは新潟(第6局)ありそうですよ」
そんな検討の声に、
控え室にいる取材陣は、右往左往。
この日は、
羽生さんが勝てば永世七冠達成で
渡辺さんが勝てば第6局へと続くのだから、
取材のひとも対応におおわらわになっている。

でも、そこでまた「わからない」が登場する。

たっぷりあった考慮時間がなくなれば、
両者は1分以内に指す将棋へと突入する。

読んでいなかった手を相手が指す
秒読みに慌てて自分の読みが信じられなくなる
一瞬アタマが真っ白になってしまう

そんなことが起これば、
いくら勝勢でも、最後の最後で、間違えるかもしれないのだ。

だから、わかんないし、
むしろ、それがあたりまえだし、
みんなで「わかんない」「難しい」なんて腕組みしてるんだけど、
決着は不思議につく。
その、わかんなさが、また、おもしろいんです。

(たぶん、続きます。
 明日はいよいよ最終第7局です)

Posted by tekigi1969 at 2008年12月16日 16:20
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コメント

再々登場、おねがいします。  (笑)。

「わかりそうで、わからない」
「見えそうで見えない」
そのギリギリ感が、どんどんひき込ませていくんでしょうね。

ちらっと見え隠れするものを
時々見えちゃったりするのが、トッププロの世界なのかも。
と思うとますますひき込まれそうですね。

Posted by 涙腺30 at 2008年12月17日 00:40

>涙腺30さん
 おおっ、すごい名前での再登場ありがとうございます。
 トッププロの将棋は
 たしかに
 そのチラリズムがそそるのかもしれないです。ぬはは。
 だから、
 わからなくってもいいんだな、と
 自分勝手に思うことにしました。

 再々々登場もお待ちしておりまーす。

Posted by ふるた(適宜更新) at 2008年12月17日 10:29
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