2010年12月09日

●「電子書籍を出してみたよ」はこうやって出したよ5

「電子書籍を出してみたよ」はこうやって出したよ4のつづき。

1、新橋のルノアールに着いたのは約束した時間の15分前。出直そうとしたときにすれ違った背の高いひとがコンテンツ会社のMさんでした。Mさんは、iPhone、iPadで読める電子書籍アプリをつかった事業の構想を話してくれました。

2、それはもちろん、ぼくもカナカナ書房でやりたかったことのひとつです。この2つのデバイスはスマートフォンとタブレット型パソコンであると同時に、いまの日本でもっとも普及している電子書籍端末でもありました。アップル社のiBooksサービスはまだ海外でしかスタートしていませんが、日本でもアプリというカタチですでにいくつもの電子書籍が並んでいたのです。これは、ぜひともやってみたい。

3、でも、やりたくても手が出せなかったのです。アプリ開発にはそれなりの知識が必要。まさかプログラマさんにタダでお願いするわけにもいきません。電子書籍アプリをカンタンに作成できるサービスもありましたが、それには初期投資が必要でした。それに、カナカナ書房を会社組織にしなくてはいけない可能性もありました。だから、ただ「いいなあ」と思っていただけだったのです。Mさんの話を聞いた感想は「うらやましいなあ」でした。

4、Mさんが知りたがっていたのは、「本のクオリティ」に関する部分のようでした。当時(というか、いまもかな)電子書籍をつかったいちばん現実的なビジネスは、いわゆる自費出版的なものです。本を出版したいというひとから原稿と制作費をもらって、体裁を整え、出版する。紙の本の世界でも賛否両論あるやり方だけど、昔からずっと一定の需要があるのは確かです。こうした形式から生まれた名著もたくさん存在します。その本が良いのか悪いのかを判断するのは、読者であるべきだとぼくは思っていますが、乞われるままに出していたら、やはりクオリティは維持しづらいでしょう。これまでさまざまなケータイコンテンツを手がけてこられたMさんは、このところをずいぶん気にしていました。

5、意見を求められていると思ったので、正直に、そういったやり方には可能性を感じないと話しました。ぼくたちがカナカナ書房としてキンドル本をつくったのは、ほとんど無料でPublishできる環境があったからです。アプリの世界でも激しい価格競争が起こることは予想できました。クオリティはもちろん、そういう意味でも難しいのではないか。そう言いました。個人的な意見とはいえ、電子書籍についてそういう考えがスラスラ出てくる自分にちょっとびっくりしたのはナイショです。

6、その上で、ぼくにできることを考えてみました。ライターですから原稿のリライトといった貢献ができるかもしれない。でも、それにはある程度の金額を支払ってもらわなくてはなりません。そうでなくてはぼくがご飯食べられなくなっちゃいます。さらにイラストや写真、編集者さんが介在すればコストはかなり膨らみます。これならクオリティは維持できそうですが、制作費を誰が負担するのか、という壁にぶちあたっちゃいます。電子書籍アプリの売れ行きは未知数なので、やっぱり著者さん以外は出したがらないでしょう。

7、会話の出口が見つからないので、アタマのなかで状況を整理しました。いま、目の前には、ウェブにコンテンツを配信する技術と意欲を持っている方がいる。おそらく、ぼくがもっとも困難だと思った「電子書籍への変換」のところはクリアできるのです。一方で、出版に関わるひとには、コンテンツをつくるノウハウがあります。彼らにはMさんが心配する「クオリティ」を上げることができます。だったら、残る問題は、このつなげ方だけです。そうか、と、ぼくの知人を紹介することにしました。とくに編集プロダクション・制作会社とのパイプができれば、何かが見つかりそうです。そう話し、Mさんとのやりとりが始まりました。その過程で、出版の世界を知る一助になればと電書フリマでつくった「キンドルで本、出してみたよ」のPDF版をお渡ししたのです。

8、Mさんから届いたのは、電書の感想メールではなく「これ、アプリにさせてもらえませんか」という申し出でした。会社初の電子書籍として、これを出す。自費出版でなく印税契約を交わしたい、というお話でした。びっくりしましたが、この本の権利者はほぼぼくひとりです。もちろん即決です。全面的に書き直した上でのアプリ化をその場で決めました。

9、こうしてPublishされたのが、アプリ「電子書籍を出してみたよ」です。アプリ化の作業、校正、表紙づくり、さらには契約の書式・条件まで、Mさんとぼく、カナカナ書房に協力してくれる知人とでイチからぜんぶ話し合いながら、つくっていきました。面倒だけど、前例がないということは、みんなが納得できれば、どんなやり方でもアリなのです。これはすごく心地のよい環境でした。

10、「電子書籍を出してみたよ」は、発売後1週間でランキング5位まで上昇しました。過渡期だからこそ起こったことだとは思いますが、すげえうれしかったです。ありがとうございます。ぼくや参加してくれた仲間が「これで食べていける」というレベルにはもちろんまだ達してはいませんが、それでも2000人もの方々がDLしてくださったのは大成功だと思います。だから、来年も続けます。カナカナ書房では、現在、ぼくではない他の著者さんの作品を準備しています。HIVについての小説集だったり、スティーブン・セガールについての熱すぎる愛をまとめたものだったり、ミュージシャンが主導する音付き電子絵本だったり、どれもぼくが読んでみたいと思った一冊です。そういう作品があってこそ「レーベル」になれるはず。クオリティはもちろん大切ですが、紙の書籍にはない、ある程度の緩さも出していけたらいいな、と考えています。もし宜しかったら、これからの活動にも期待してやってください。

<アプリ、アップデートのお知らせ!>
 近日中に、
 iPhone/iPadアプリ「電子書籍を出してみたよ」が
 アップデートされます。
 ver2.0では
 iPhoneで発生していた一部不具合を修正するだけじゃなく、
 このBLOG記事『「電子書籍を出してみたよ」はこうやって出したよ』を基にした
 1万字超の「あとがき2.0」が加筆される予定です。
 すでにデータは更新審査に入っておりますので、
 文章30%増量アップデートは、もうすぐのはず。お楽しみに!

Posted by tekigi1969 at 2010年12月09日 16:23
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