2011年11月26日

●精興社さん工場見学その2

精興社さん工場見学その1の続き。

1、活版印刷所に後ろ髪をひかれつつ、現役で稼動している工場棟へ。1913年の創業以来「美しい活版印刷」で長年名を馳せた精興社さんも、いまではオフセット印刷機で刷ってます。青梅にあるのは菊全判両面2色兼用機3台。おもに書籍の本文を、両面いっぺんに刷っていきます。

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 インキの匂いがたまらんです。

2、オフセット印刷は、効率のよさが最大の特徴。マシンスペック的にはもっと高速で動かすことも可能で、そうすればこの工場から出荷できる製品は多くできる。でも、印刷された本文をできるだけ細部までチェックし、品質を高く保つためには遅いほうがいい。そのバランスをとって「どちらかといえば効率よりも品質を優先して遅め」にしているそうです。トレードオフってやつですね。こういう部分でも、会社の個性というのが出るんだと思う。

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 家庭用のプリンタとはケタ違いに大掛かり&精密そうな紙送りの部分。

3、工場2階には「組版」「製版」をおこなう部署がありました。こういう印刷前の工程を「プリプレス」というそうです。どうして「プレ」じゃないんだろう。あ、そうそう。印刷業者さんは「インク」を「インキ」といいます。こちらの理由も定かではないですが、業界人っぽい用語として覚えておくと何かの役に立つかもしれません。いつか、きっと、何か。

4、「組版」で組まれるのはもう金属板ではなくデータです。出版社から届いたさまざまな形式の原稿データを、指定に従ってページのカタチにする。メインはInDesignとMCB2。いわゆるひとつのコンピュータによるDTP(Desk Top Publishing)というやつです。といってもそこはやはり創業98年の会社なので、標準のレイアウトだけでなく、数式の出てくる本や古文書といった特殊な組版にも対応。古文書専門の校閲(原稿の間違いをチェックすること)担当の方までいました。「、。(!?といった約物(記号類)が本のなかできちんと統一されているかをチェックしたり、索引を自動抽出するデータ処理ソフトもつかっているのだとか。最近は印刷代を安く上げるために、この工程を出版社内でやっちゃうことが増えているけど、本当はこのくらいキチンとやった方がイイものができるんだと思う。ウェブや電書には校閲自体が存在しないことも多いから、ここだけ別途商品化できたらいいのにな。

5、DTPといえば、こんな魅惑のマシンもありました。

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 写研のCTS機「サザンナ」。なんと現役!
 ちなみに記録媒体は8インチフロッピーディスク!

6、DTPのはしり、CTS(computerized typesetting system 電算写植システム)の時代に登場した機械で、キーボードが写植独自の 「一」「寸」「ノ」「巾」という配列になっています。この配列は「一寸の巾」と呼ばれて、写植をやるひとはみな最初にこれを暗記したのだとか。故障もなく、サポートもしっかりしているので、慣れている方にとってはいまでも立派につかえるマシン。ベテランオペーレータの方がビシバシつかっておられました。

7、精興社さんには活字時代に開発した「精興社書体」という独自の書体があるんだけど、いまはそれもデータ化されたフォントになっているそうです。「実際に活字を刷ると少しインキが広がるので、データ上のカタチはそのインキ分を考慮して決めました」とのこと。ほんの数%の違いでずいぶんニュアンスが違ってしまうみたい。

 
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 松岡正剛さんの「千夜千冊」も、この工場で印刷されたそうです。

8、ぼくはつい最近まで知らなかったんだけど、じつはフォントって、字によって大きさ・幅が微妙に違うそうです。習字を思い出せば分かるように、機械的に均一に並べるとかえって読みづらいんですよね。だから活字もフォントも、文章を並べたときに読みやすいように調節してあるのです。ウェブ上でつかわれているフォントの多くは「横書きにしたときに読みやすいように」つくってあるので、そのまま縦書きにするとバランスがガタガタになっちゃうのです。確認したわけじゃないけど、日本語の書籍印刷につかわれるフォントは、縦書き用のものだと思います。

9、1つの漢字のアップだけが表示されているディスプレイを見つけて「何をなさっているんですか?」と聞いたら、フォントのカタチを調整しているとのことでした。話によると、古文書の世界というのは結構スゴクて「ある特定の本の1ページにだけ登場する漢字」というのが出てきたりするのだそうです。世界にそこにしかない文字です。もしかしたら、単なる書き間違いかもしれない。でも、印刷所が内容を修正することはできません。だから、活版時代はその1字だけのために金型をつくり、活字をつくって刷った。いまもそのためだけにフォントをつくることがあるのでした。すげー。すげー。かっこいいっ。あ、あと、文章書きなのに、これまでぜんぜん知らなくてすみませんでした。

 この青梅工場見学の内容は
 ご一緒したやもさんのBLOG記事
 →「あこがれの精興社
 にも写真とレポートが載ってます。ご参照ください。

(続きます)


Posted by tekigi1969 at 15:11 | Comments [8] | Trackbacks [0]

2011年11月24日

●精興社さん工場見学その1

先日、印刷会社さんの工場を見学させていただきました。
貴重な機会をつくってくださったのは精興社さん。
わがまま聞いていただき、ありがとうございます。

1、精興社さんの工場・事業所はあちこちにあるので、9月9日にまずは青梅工場へ。ここはおもに書籍の本文を印刷している工場。敷地内には、90年代まで稼働していた活版印刷工場が資料館として保存されていました。最初にこちらを見学。「こうじょう」というより「こうば」と呼びたい感じ。なかはいまでもインキの匂いが残っていて、当時の様子が再現されていました。

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 活字が並ぶ棚「スダレケース」
(写真はKumiMorotaさん撮影のもの)

2、活版印刷の時代、原稿はもちろんデータじゃないので、1文字ずつ活字を拾わなくちゃいけなかった。この作業が「文選」で、「銀河鉄道の夜」のジョバンニが学校帰りにやっていたアレであります。

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 スダレケースのアップ。
(写真はKumiMorotaさん撮影のもの)

3、並び順は使用頻度や関連度によって決まっているらしいけど、ちょっと見たくらいでは分かりませんでした。あと、よく出てくる文字(例えば「の」)の棚は広かったりしています。

4、拾った活字は、デザインどおりのレイアウトになるよう組版用の金具(ステッチ)に並べていきます。1行分の長さの金属板(インテル)、ルビがあるはもちろん短い板をつかって、行間をそろえ、手作業で1ページずつきっちり詰めていくわけです。まさに文字通りの「組版」!

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 工業製品!という感じ。

5、活字の組版ができたら、熱に強い紙を重ねた「紙型」に転写。重版とかのために保存される母型は、この紙型とのこと。精興社さんでは、品質を高く保つために、活字は1回つかうごとに鋳造しなおしていたそうです。紙型にドロドロに溶けた地金を流し、印刷にかけるための鉛板がつくられます。

6、ぼくは見逃したんだけど、見学に参加した某さんはここで「岩波のマーク」の活字を見かけたとか。家に帰ってから、本棚にあった古い岩波文庫の奥付をチェックしてみたら、たしかに「印刷精興社」とありました。たぶんここで刷ったんだろなあ。すげー。

7、古い作家さんのエッセイなんかで「〆切が守れず、印刷会社で立ったまま原稿を書いた」なんてよくあるけど、ここで書くのは、楽しかったんじゃないかなあ。聞いてみたら「ときどきそういう”常連”の方がおられましたね」とのことでした。なかには、工場の片隅にボトルキープをしていた剛の作家さんもおられたとか。かっこいいなあ。

精興社さんの活版印刷については、ここに詳しく載ってます→精興社博物館

(続きます)


Posted by tekigi1969 at 16:09 | Comments [1] | Trackbacks [0]